An Additinal Budget




お願いだから、近づかないで。


心がすくんでしまうから。




「ねえねえ、君って光陵でしょ?」

「か〜わい〜、何?部活の買出し?」

「俺ら六条なんだよね〜、ちょっと遊ばない?」

学校から歩いて15分ほどのところに在る少し大きめのマーケット。
近隣に密集気味の他の私立高校などからも程よい距離にあるため、文房具や雑貨などもおいてあり、学割等のサービスも実施しているため、そこそこ高校生の利用が多い。
光陵高校の生徒もよくイベント時には買出しに来ることが多いスーパーだ。


随分とタイミングよく雑魚がかかったな。


迅はスーパーの煩雑に置かれた商品棚から、重い籠を両手で持ちながら四苦八苦している皐月の姿を油断無く捉えていた。
予想していたとはいえ、皐月からは学校からスーパーまでの道中は「近寄らないで。」というお言葉を賜り、スーパーに到着してからは「どこかに行ってて。」という何とも可愛らしい拒絶の意。これもまあ予想内である。
とりあえずは言葉通りブラブラしていたものの、そろそろかと思い皐月の姿を探してみれば、この有様。思惑通り過ぎて笑いがこみ上げてしまう。

「結構です、すぐに学校に戻らなければならないんで!」

他校の男三人に囲まれて、必死に威嚇している皐月。
しかし、重いかごを持っていて身動きが取れないと同時に、通路の大半を三人に囲まれていて振り切れない。

「そんなのい〜じゃん、い〜じゃん。」

「ちょっと位サボったってわかりゃしないって!」

「ってか籠持ってあげようかぁ〜?」

男三人がしつこく皐月に詰め寄る。
六条というのはこのスーパーから最も近隣に在る高校で、補足として男子校。
レベルは決して悪くはないが、いかんせん全体的に柄が悪い。
そんな輩が出没する可能性のある場所に皐月を行かせれば、間違いなく男が近づくと迅は踏んだのだ。
なんせあの人目を引く不可思議な雰囲気、小さくて細い庇護欲を十分に駆り立てる体、日本人とは思えない色素の薄い、重さを感じさせない背中に流れる髪、そしてあの、漆黒の瞳。
加えて良家子女の揃った光陵高校の制服を着ていれば、これ以上の条件はないだろう。


さて、彼女はいつまでもつのかな。


我ながら意地が悪いとは思うが、ここは一つ彼らには皐月の男性恐怖症の限界を突破してもらい、せいぜい自分が付け入る隙を作っていただこう。
勿論度を越した行いを彼女に対しさせる気はサラサラないが。

「い、いや・・・・」

ジリジリと三人が焦れて皐月に接近する。
なんとか張っていた虚勢も、そろそろ威力が衰えてきたようだ。
ガコン、と飲み物が入っていた重量級の籠が床に落ちた。
それが恐怖から来る震えによってもたらされた結果だと、迅には分かっていた。


腹の中でザワリ、と説明の付かない感情が渦巻く。
自分の仕組んだこの事態。
彼女に自分は他の男とは別枠なのだと思わせるには必要だと思ったからだ。

けれど。

皐月に詰め寄るのは自分だけで良い。
皐月を怯えさせるのも自分だけで良い。
皐月の全ての感情は自分に向けられれば、と。


矛盾。


あらゆる手段で追い詰めたいと思うと同時に、
自分以外の誰も皐月を知らなければ、と思う。




「ほら、行こうって!」

そう言って一人が皐月の腕を勢いよく掴んだ。
加えて他の二人も皐月の肩やウエストに手を回す。
皐月の顔が蒼白のさらに上を行って白くなったとき、迅は身を乗り出した。

そのとき。


「っっっ!!!」


皐月の声にならない悲鳴が迅には確かに聞こえた。